夕張の石炭と竹鶴兄弟 ― ウィスキーの香りは坑道から

採炭救国坑夫の像が竹鶴ウィスキーのボトルを掲げるフォトコラージュ

坑道の奥から、ひんやりとした風が吹いてくる。
5月の午後でも冷たいその空気の中、博物館の出口を出ると、ヘルメットにランプをつけ、胸を張って立つ坑夫の像がこちらを見つめている。

台座には力強く「採炭救国」と刻まれていた。

目次

道の駅から始まった偶然

5月の北海道車中泊の旅の途中、早朝の道の駅りくべつに寄った。
そこで、陸別も「幸せの黄色いハンカチ」のロケ地であったことを知った。

道の駅りくべつに掲げられた映画『幸福の黄色いハンカチ』のポスターと黄色い旗
道の駅りくべつに飾られた、映画『幸福の黄色いハンカチ』のポスターと黄色い旗。夕張のロケ地を訪れるきっかけにもなる、名作へのオマージュ。

網走から始まり夕張で終わるロードムービー。小学生のときに観たきりなので、道中にどこを寄っていたのかは覚えていなかった。

懐かしい響きに惹かれ、その日の夜、さっそくAmazonプライムで映画を観た。
スクリーンの中で、夕張の町が人々の想いを受け止める舞台になっていた。

北海道最終日、夕張を通るルートだった。
「せっかくだし、立ち寄ってみるか」
それが、炭鉱の町への小さな旅の始まりだった。


炭鉱の記憶と「進発の像」

夕張石炭博物館の駐車場に車を停め、夕張石炭博物館の入口まで5分ほど上り坂を歩く。
※博物館の詳細は別途紹介させていただきます。

坑道の出口を出ると、白く大きな像が目に入った。
「採炭救国」と書かれた台座。力強く片手を掲げる坑夫の姿。
それがなぜか気になった。

夕張石炭博物館に立つ採炭救国坑夫の像(進発の像)
夕張石炭博物館に建つ「採炭救国坑夫の像(進発の像)」。力強く片手を掲げ、夕張の石炭産業の歴史を今に伝えている。
夕張石炭博物館の「進発の像」に関する説明看板
「進発の像」の説明看板。戦時中に制作され、戦後は「採炭救国坑夫の像」と呼ばれるようになり、夕張市の文化財に指定されている。

帰宅後も、あの像のことが頭から離れず、夕張について調べていたとき、偶然見つけたFacebookの投稿に目が留まった。

『進発の像』の顔のモデルは、ニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝の兄、竹鶴可文だという話があります。

心臓がひとつ、高く打った。
あのウィスキーの竹鶴と、夕張の炭鉱がつながるのか?


炭とウィスキーをつなぐ兄弟の物語

竹鶴可文。
1918年(大正7年)に北炭へ入り、ほとんどを夕張で過ごし、昭和10年代には夕張鉱所長となった。
一方、弟の政孝はスコットランドで学んだウィスキー造りの夢を追い、江別での蒸留所計画を経て、余市に蒸留所を築いた。

さらに調べると、余市の蒸留所はいまも世界唯一の「石炭直火蒸留」を続けており、かつては夕張炭が使われていた可能性があるという。

あの坑道の奥の黒い石が、ウィスキーの琥珀色の炎を支えていたのかもしれない。
夕張で兄が掘り出した炭が、弟の夢に火を灯していた。


坑道の記憶がグラスに宿る

札幌オリンピックに兄弟で関わったという話も残っている。
竹鶴兄弟は、それぞれの道で“熱”を生み出し、夕張の炭と余市の樽の香りを、遠いところでつないでいた。

あの日、夕張で見上げた坑夫の像が、グラスの中の琥珀色に重なって見える。

地下の暗がりの先に残されたものは、燃料だけじゃなかった。
その熱が、夢を支え、いまも静かに香り続けている。

その一滴は、坑道から届いた。

夕張石炭博物館 基本情報

項目内容
名称夕張市石炭博物館
かなゆうばりしせきたんはくぶつかん
住所北海道夕張市高松7-1
電話番号0123-52-3166(夕張市教育委員会)
開館年1980年(昭和55年)7月
開館時間4月~9月 10:00~17:00(最終入場16:30)
10月~11月 10:00~16:00(最終入場15:30)
休館日火曜日、11月初旬~4月下旬(GW・お盆期間中は開館予定、詳細は公式サイト参照)
入館料(大人)720円
入館料(子供)440円
駐車場1,000台(平日無料、土日祝500円)
アクセス車:札幌より約75分(国道274号線、道道3号線経由)
バス:夕鉄バス「石炭の歴史村ターミナル」下車
主な展示内容石炭産業・炭鉱の歴史、坑道実物展示、炭鉱機械、模擬坑道(史跡夕張砿)、生活資料など
特徴体験型展示・本物の坑道見学・北海道最大級の炭鉱博物館
公式サイト夕張市石炭博物館公式サイト
  • ※模擬坑道(史跡夕張砿)は復旧工事中で見学できない場合があります
  • 展示品は石炭産業資料約5,000点、地学資料約500点、生活資料約3,000点
  • 施設の詳細や最新情報は公式サイトでご確認ください

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