知られざる開湯の物語|糠平温泉郷のはじまり

開業当時の湯元館の木造建築と縁側に佇む人々(昭和初期)
森のフクロウ

糠平温泉郷に眠る開湯の物語。大正時代、深雪を踏み越えて源泉を探し当てた男の執念と、町の静けさに宿る歴史の重みを語る。

目次

糠平温泉郷と足湯の朝──開湯の物語に触れる時間

道東の山あい、糠平温泉郷。
これまで幾度となく通り過ぎてきた場所に、なぜかこの日は足がとまった。

糠平温泉郷の温泉公園。青空と芝生が広がる静かな朝の風景
糠平温泉郷にある「温泉公園」。足湯を楽しめる東屋や整備された遊歩道があり、晴れた朝には青空と緑が映える気持ちのよい場所。

国営ぬかびら野営キャンプ場を出て、糠平湖の静けさを味わった後のこと。朝6時25分、温泉公園の足湯で旅の足を癒しながら、一枚の看板に目を留めた。「糠平温泉開湯の物語」。

その内容に、思わず読み入ってしまった。

糠平温泉郷の足湯施設。木造の屋根付きで、複数のベンチが囲むように設置されている。
朝の静けさに包まれた、糠平温泉公園の足湯。木漏れ日の中、旅人の足をやさしく癒してくれる。

「滝の湯」を求めて

その昔、糠平は深い原始林に覆われた場所であった。エゾマツやトドマツが生い茂り、人の足もほとんど踏み入れたことがない大自然が広がっていたという。

この地に“卵がゆでられるほど熱い湯が湧いている”という地元アイヌの伝承をもとに調査を開始したのが、湯元館の初代館主・島崎美翁である。

島崎美翁の執念

大正8年3月、島崎は馬にまたがり雪深き山奥へと踏み込んだ。だが、想像を超える積雪と断崖絶壁に阻まれ、馬では進めなくなった。やむを得ず馬を造材小屋に預け、輪かんじきを履いてさらに奥へ進む。

密林の中で一夜を明かし、翌朝、木が生えておらずヨシが生い茂る沢に出た。湯煙が立ちのぼるその場所は、確かに温泉だった。

しかし、それは探し求めていた源泉とは異なっていた。


歴史が眠る静かな温泉郷

なおも探し続けた島崎は、最初の場所から百数十メートル西に、より豊かに湯が湧く場所を発見した。これが“滝の湯”と呼ばれる源泉であり、ここから糠平温泉の歴史がはじまったのである。

開業当時の湯元館の木造建築と縁側に佇む人々(昭和初期)
開業当時の「湯元館」。
木造2階建ての建物には縁側があり、和装の人々が湯治場として利用していた面影が残る。
歴史とともに歩んできた温泉宿の原点がここにある。

過酷な自然と向き合いながらも、信じた温泉の存在を求めて歩みを止めなかった男の執念。温泉郷の静けさの裏には、そんな物語が眠っていた。

いつも何気なく通り過ぎていたこの町に、こんな深い歴史があったとは――。

糠平温泉郷 歴史年表

元号西暦できごと / Events
大正81919島隆美(湯元館初代館主)が糠平温泉源である滝の湯(別名湯の元)を発見
昭和91934大雪山国立公園が指定される
昭和121937国鉄士幌線が糠平まで開通
昭和141939国鉄士幌線が三股まで開通
昭和231948スキー場が開設される
昭和301955糠平ダムが完成
昭和421967糠平~然別「パールスカイライン(幌鹿峠)」が開通
昭和471972三国峠が開通
昭和621987国鉄士幌線が廃止される
平成132001コンクリートアーチ橋梁群が北海道遺産に認定
平成192007旅館組合が「源泉かけ流し宣言」を北海道庁で宣言
平成212009地名を「糠平」から「ぬかびら源泉郷」に変更
平成252013ひがし大雪自然館が開館
平成302018ぬかびら源泉郷開湯100周年記念事業が完遂
昭和9年、大雪山国立公園の指定時に記念撮影する男性たちと記念標柱
1934年(昭和9年)、大雪山が国立公園として指定された記念の一枚。
和装と洋装が混在する装いに時代の移り変わりが見てとれる。
中央に立つ「大雪山国立公園」の標柱が凛とした存在感を放っている。
蒸気機関車が糠平湖を横断する士幌線のカーブを走行中の様子
かつて存在した国鉄士幌線。
蒸気機関車が白煙を上げながら、糠平湖のほとりを大きくカーブし横断していく姿は、
自然と鉄道が共存していた時代を物語る一瞬。
今はもう見られない風景。
上士幌町観光協会
ぬかびら源泉郷|上士幌町観光協会 北海道バルーンフェスティバル、旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群、ナイタイ高原牧場、移住定住情報などの案内。

森のフクロウ川柳

森のフクロウ

湯けむりに
 踏み込む覚悟 雪の森

そんな話もありますねん。

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