チョウザメの刺身と、びっくり寿司の夜
その夜、鹿追町の「びっくり寿司」は、扇風機がゆっくりと回る静かな時間に包まれていた。
ラストオーダー間近の21時過ぎ、刺身の盛り合わせとビールを注文し、木のカウンターに腰を落ち着けたとき──
目の前の水槽に、小さな魚影がひらりと泳いだ。
「チョウザメだよ」
店主が笑顔でそう教えてくれた。
チョウザメ?寿司屋で?──その違和感は、やがて驚きと感動に変わっていく。

キャビアを目指した、鹿追町の挑戦
話を聞けば、それはただの観賞用ではなかった。
鹿追町は2014年から、チョウザメの養殖を始めたという。
きっかけは家畜ふん尿を再利用したバイオガスプラント。
その余剰熱を活かすために生まれたのが、サステナブルな水産養殖という道だった。
当初は300匹。そこから11年の歳月を経て、2025年、ようやく「鹿追キャビア」の名で商品化が始まった。
チョウザメという魚──“ロイヤルフィッシュ”の実力
チョウザメは見た目こそ“サメ”だが、実は古代魚で、淡水に棲む。
クセのない白身は刺身でもよし、揚げても煮ても美味。
「これ、試してみな」
そう言って店主が出してくれたのは、チョウザメのルイベ。
凍ったままのそれは、ねっとりとした舌ざわりとほんのり広がる脂の甘みがあった。
西洋では「ロイヤルフィッシュ」とも呼ばれる高級魚。
鹿追のチョウザメも、確かにその名にふさわしい味だった。
熱を、未来につなげる
養殖にはオスメスの判別で4年、そこからキャビアが採れるのにさらに6年。
つまり9年間は収益ゼロ。
それでも町はあきらめなかった。
2025年、ようやく「鹿追キャビア」の販売が始まり、町のイベントや飲食店でも提供がスタート。
地元の飲食店主たちも「これは鹿追の宝だ」とばかりに、調理法を工夫し、メニュー開発に力を注ぐ。
カナダ、そして世界へ──鹿追の夢は続く

「うちの高校生、カナダに3万円で留学できるんだよ」
会話の途中、店主がふと語った。
鹿追町はカナダのストニープレイン市と姉妹都市。
チョウザメの物語も、ただのグルメ話にとどまらず、教育、国際交流、環境、地域の未来を見据えた挑戦へとつながっている。
地元で育て、地元で味わう
現在、町内ではチョウザメを使った天ぷらや唐揚げ、しゃぶしゃぶといった料理も楽しめる。
町の研究会や関係者が一丸となって、まちぐるみのブランドづくりを続けている。
びっくり寿司でのひとときが、こんな深いストーリーへとつながっていたとは。
知らずに食べていたら、もったいないところだった。
鹿追町の取り組み まとめ
鹿追町は、地域資源や教育を活かした独自の取り組みが全国的にも注目されています。
チョウザメ養殖とキャビア事業
鹿追町は2014年、家畜ふん尿を活用したバイオガスプラントの「余剰熱」を利用してチョウザメ養殖に着手。さまざまな困難を乗り越え、2025年に国産キャビア「鹿追キャビア」の商品化に成功しました。町は養殖初期の約300匹から、今や5,000~6,000匹規模まで飼育数を拡大。キャビアの商品化だけでなく、町内飲食店ではチョウザメの魚肉を使ったさまざまな料理も提供されています。環境エネルギーと新しい地場産業の融合は、鹿追町を代表するサステナブルな地方創生モデルとなっています。
鹿追高校カナダ短期留学
鹿追高校では、カナダ・アルバータ州ストニィプレイン町との姉妹都市提携(1985年~)を活かし、実践的なグローバル教育を推進しています。鹿追高校2年生は、およそ2週間、現地でホームステイと現地校交流を体験。しかも町が大部分を負担し、自己負担額は28,000~30,000円程度に抑えられています。パスポート・保険など一部実費が別途必要ですが、海外体験を破格でサポートする事業として全国でもユニークです。希望者全員参加可(成績等条件あり)で、英語力や国際感覚、地域を担う若者の育成につながっています。
鹿追町の主な取り組み一覧
取り組み | 内容 | 特徴・成果 |
---|---|---|
チョウザメ養殖・キャビア商品化 | バイオガスプラント余剰熱を活用しチョウザメ養殖。2025年「鹿追キャビア」商品化。魚肉料理も地域名物。 | サステナブルな地域産業創出、観光振興 |
カナダ短期留学プログラム | 鹿追高校2年生対象。自己負担28,000円~30,000円で2週間のホームステイ留学(町が費用大部分を負担)。 | 希望者全員参加可。英語・国際体験と地域教育の強化 |
地域みらい留学や自然体験留学制度 | 全国から児童・生徒の受け入れ。体験学習や集団生活、農業体験など多様な教育を展開。 | 移住・定住促進、地域コミュニティ活性化 |
鹿追町は、環境・食・教育の分野で特色ある政策を実行し、持続可能な町づくりと次世代育成の両立を目指しています。これらの取り組みは、「地方だからこそできる新しい価値創出」の好例となっています。
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