偶然と必然のあいだで「すぽっと」
午後3時半。
カフェえんじゅは、もう営業を終えていた。
通りは静かで、人の気配も少ない。
この町で、いま開いている店はあるのだろうか。
そんな中、ひとつだけ暖簾のかかった食堂があった。
「すぽっと」──その名も素朴で、どこか懐かしい。
錆と風のにおい
入り口の前には、一台のバイクが停まっていた。
サビだらけ。
ところどころ塗装も剥がれていて、決して新しくはない。

でも、そこには妙な存在感があった。
“旅の途中”をそのまままとっているような風貌。
雨風を受けてきた痕跡。無理もせず、飾りもせず。
店内の静けさ
入店して少しの間、店内の空気に目を馴染ませていた。
すると、その男がふと立ち上がり、
言葉はなかったけれど、笑顔とともに水を運んできてくれた。
まるで「気にせず、ゆっくりしていけよ」とでも言うように。
言葉はない。
でも、空気でわかる。
ここにずっと通ってる人なんやろな、と。
厨房の奥からは、
金髪の優しいお姉さんが、豚丼を焼いている音が聞こえた。

タレの染みた肉が食欲をそそり、付け合わせの味噌汁と漬物が嬉しい。地元に根ざした一杯は、旅の疲れをやさしく癒してくれる。
ノートパソコンとアイスコーヒー
食後、出されたアイスコーヒーを飲みながら、
ノートパソコンを開いて、WEBサイトを更新する。

誰に話しかけられるわけでもなく、
誰に気をつかうでもなく、ただ時間が流れていく。
夕方4時半の閉店まで、
そのまま、誰にも邪魔されずに居させてもらった。
午後の空白が、記憶に残る
派手な観光地でも、特別なグルメでもない。でも、思い返すとこの午後の時間が、一番“旅”だった。
あのバイクも。あの沈黙も。すべてが、“旅人のままいられた時間”だった気がする。……と思っていたら、あのサビだらけのバイク、実はサビに見せかけた塗装だったらしい。
鹿追町って、こういう控えめなユーモアと粋が、しれっとある。まだまだ、あなどれん。
食事処すぽっと
鹿追町栄町にある家庭的な雰囲気の食堂。名物は豚丼で、柔らかめの肉と四日間煮詰めた自家製のビターなしつこくないタレが特徴です。そばとのセットや、ボリューム十分の定食メニューも充実。地元の人からも旅人からも愛され、駐車場あり・現金のみ利用可。ランチやディナーに幅広い年代層が利用しやすいお店です。
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