知床自然センターの一角、静かな展示室に足を踏み入れると、
そこには森、海、川――知床のあらゆる命が奏でる「野の音」が並んでいた。
壁にはヒグマ、キタキツネ、シャチ、マッコウクジラ。
生き物たちの一瞬を切り取った写真が、深い静寂の中で物語を紡いでいる。
耳を澄ませば、展示の背後から流れてくるのは映像とともに響く自然の音。
ただ「見る」ではなく、「聴く」ための空間だった。
ノノオトとは

それは、野の音。
風が木々をすり抜ける音、ヒグマの足音、海の生き物の吐息。
月明かりの下で交わされるクジラの潮吹き。
川が山をくだり、海へと注ぎ、再び命をつなぐ。
命あるものは皆、音を残して生きている――そんな声なき声を拾い、未来へつなぐ活動。
「ノノオト」は、知床の自然を守るためのプロジェクトのひとつ。
写真展は「自然公園法第37条」や「知床国立公園管理計画書」に基づき、野生動物との適切な距離を保ちながら撮影されたものだ。
安全で節度ある観察は、動物にも人間にも安心をもたらす。
その距離こそが、世界自然遺産・知床で共に生きるための大切なルールだと伝えている。
写真が語る、距離と共生

展示の中で印象的だったのは、道路上のビニール袋に鼻を近づけるヒグマの写真。
人間の生活ごみが野生の行動を変えてしまう危うさを、これほど端的に示す一枚はない。
別の写真では、キタキツネが道路の真ん中に佇む。
その背景には、自然と人との距離感が曖昧になりつつある現実が映っている。
見て、撮って、満足していた――その先へ

「あぁ、かわいい」「珍しい」――撮って満足するだけでいいのか?
野生動物の“慣れ”は命を危険にさらす。
必要なのは、触れず、寄り添うように見守る関係。
この写真展は、知床での観察マナーや距離の大切さを問いかけている。
観光客一人ひとりがその意味を理解し、行動に移すことが、知床の未来を守ることにつながる。
基本情報
項目 | 詳細 |
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展示名 | ノノオト ― 野の音がつなぐ生命 |
会場 | 知床自然センター内 特設展示室 |
所在地 | 北海道斜里郡斜里町大字遠音別村字岩宇別531 |
運営 | 公益財団法人知床財団 |
関連リンク | 知床自然センター公式サイト |
旅メモ
写真展を出たあと、フレペの滝へ向かう遊歩道を歩いた。
耳に届くのは、波の音、風の音、遠くの鳥の声。
あの静けさの中に、ノノオトの意味が確かにあった。