十勝平野の豊かな自然に囲まれた中札内村に、明治時代から昭和の終わりまで実際に使われていた開拓農家住宅が、今も当時の姿のまま保存されています。中札内村開拓記念館は、単なる展示施設ではなく、100年以上にわたって人々の暮らしを支えてきた「生きた歴史」そのものです。
雪国の知恵が息づく「ワクノウチ造り」
記念館の建物は、富山県の豪雪地帯に古くから伝わる「ワクノウチ造り」という伝統的な建築様式で建てられています。外観を見ると、その堂々とした佇まいと、雪の重みに耐える頑丈な構造が印象的です。切妻屋根と下屋が組み合わさった独特の形状は、北海道の厳しい冬を乗り越えるための先人の知恵が込められています。

建物の内部に足を踏み入れると、吹き抜けの居間に立つ一対の太い大黒柱が目を引きます。これらの柱と横梁による井桁状の構造こそが、ワクノウチ造りの真骨頂。冬の屋根雪の重みを支えるこの骨組みは、富山から北海道へと受け継がれた建築技術の結晶です。
浜野家の足跡 – 明治から昭和への歩み

この住宅の歴史は明治41年(1908年)に始まります。富山県から中札内村に入植した浜野家が建てた農家住宅で、大正末期に現在の形に増改築されました。
明治38年から始まった中札内村の開拓は、屯田兵ではなく民間人の手に委ねられており、浜野家をはじめとする開拓者たちは、カシワやミズナラが空を覆う未開の原野で、厳しい自然と闘いながら畑作や牧畜事業を展開していきました。
この住宅は昭和11年(1936年)に一度移設された後も、昭和63年(1988年)まで実際に農家として使用され続けました。つまり、80年間にわたって家族の暮らしを見守り続けた、真の意味での「生活遺産」なのです。
開拓時代の暮らしを物語る展示
館内には村民から寄贈された貴重な生活道具が数多く展示されています。大正時代から昭和初期にかけて使われていた机やタンス、食器類、足踏みミシン、衣服など、開拓農家の日常生活が丁寧に再現されています。

特に印象深いのは、畳敷きの居間に配置された火鉢や生活用品の数々です。また、足踏み式のミシンが窓辺に置かれた様子からは、女性たちが家族のために衣服を仕立てていた当時の様子が目に浮かびます。
奥座敷の書院造りや美しい欄間の装飾は、浜野家の生活水準の高さを物語っており、開拓農家といえども文化的な暮らしを大切にしていたことがうかがえます。

記念館として生まれ変わる
平成4年(1992年)、この歴史的価値の高い住宅は郷土の歴史と生活文化を継承するために村に寄贈され、現在の「道の駅なかさつない」の敷地内に移築・復元されました。同年に開拓記念館として正式にオープンし、中札内村の開拓史を物語る貴重な資料館となりました。
現在も建物の一部はそば処として営業されており、来訪者は歴史的な雰囲気の中で食事を楽しみながら、開拓時代の生活を体感することができます。これは歴史的遺産の保存と現代的な活用を両立させた、優れた取り組みといえるでしょう。
訪れる人々への想い
中札内村開拓記念館は、単に過去を展示する施設ではありません。明治時代から現代まで続く人々の営みの軌跡であり、厳しい自然環境の中で築き上げられた暮らしの知恵と文化の宝庫です。
建物の随所に見られる生活の痕跡、使い込まれた道具類、そして今も残る建築技術の粋。これらすべてが、北海道開拓の歴史と、そこに生きた人々の物語を静かに語りかけています。十勝を訪れる際には、ぜひこの貴重な歴史的遺産に足を運び、開拓者たちの息づかいを感じてみてください。
基本情報
項目 | 詳細 |
---|---|
正式名称 | 中札内村開拓記念館 |
住所 | 中札内村大通南7丁目14 道の駅なかさつない内 |
電話番号 | 0155-67-2811 |
開館時間 | 午前9時~午後5時 |
開館期間 | 4月~11月 |
休館日 | 月曜日(祝日の場合はオープン) |
冬季休館 | 12月~3月 |
入館料 | 無料 |
建築年代 | 大正末期 |
移築年 | 平成4年(1992年) |
建築様式 | ワクノウチ造り(富山県の伝統建築) |
床面積 | 168平方メートル |
元所有者 | 浜野家(富山県からの開拓移住者) |
関連リンク



おすすめ記事





