山田温泉を過ぎて
朝の然別湖へ向かう山道を進む途中、ふと目を引く建物があった。
「山田温泉」──年に56日だけ開く幻の湯とされ、今はその姿を静かに残している。
入口は板で封鎖され、「天然湯の宿」の看板が色褪せながらも堂々と掲げられていた。
かつて“ぬし”と呼ばれた男の碑が、そこにあった。
その話は、また別の記事で──
→ 【然別湖のぬし】山田温泉、失われた秘湯の記憶

そして鹿の湯へ
4月の旅でたどり着けなかった「鹿の湯」。
今回は道も開通しており、いよいよのリベンジ。
扇ヶ原展望台を越え、林道を抜け、キャンプ場を通りすぎて川沿いの野湯へ向かう。

朝の空気は澄んでいた。

河原を100mほど歩くと、岩と石で組まれた野湯が見えてくる。

「やっと来れた……」
温泉マニアの間でも人気の“鹿の湯”は、無料・混浴・自然野湯。
そして何より、川のすぐ横に湧いているロケーションが最高や。
ただ──
ここで待ち受けていたのは、自然の洗礼だった。
アブ、アブ、アブ!
服を脱ぎかけたその瞬間、
「ブンブンブンブンブン!!!!!」
アブの大群が襲来。
何十匹も押し寄せてくる。服の中、首筋、耳もと……
慌ててタオルでバチバチと追い払いながら、なんとか服を脱いで──
ドボン!
飛び込んだ湯は、ちょうどいい熱さ。
滑らかな肌ざわりで、身体が芯から温まっていく。
視界の端には、川が流れている。
熱くなりすぎたら、すぐ横でクールダウンできるのもまた最高。
しかし、アブは容赦しない。
頭まわりを旋回しながら、ずっとブンブンしてる。
野湯という体験
温泉の湯温は約43〜44℃くらい。
湧き出し口に近いほど熱く、少し下流はちょうどよい。
石で囲われた湯船の底には藻もあり、やや滑りやすい。
足元に気をつけつつ、川の音を聞きながら湯に浸かる時間──
ああ、これや。
これが“野湯”のリアルや。
自然の中に身を置くことは、癒しだけじゃない。
虫も風も、すべてと向き合う覚悟がいる。
けれど、そのすべてを含めて「来てよかった」と思える湯やった。
リベンジ達成の朝
4月には通れなかった林道。
ようやく辿り着いた鹿の湯で、汗とアブにまみれながら湯に浸かる朝。
野営キャンパーたちの姿も見え、静かな交流もあった。
「また来たい」とは、ちょっと言いにくい。
でも、「一度来れてよかった」と心から思う。癒しか、戦いか。
自然に抱かれながら、体も心もあたたまった。
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